贋作に価値はあるか

結論から言うと、「価値がある」というのが僕のスタンスである。

もちろん、詐欺行為は良くない。
又、著作権の問題もある。
しかし、これらの問題をクリアした場合、オリジナルを忠実にコピーした作品や、あるいは作風を忠実に再現した作品は、価値の高い芸術行為であると思う。

先般NHKで「贋作の迷宮〜闇にひそむ名作〜」というドキュメンタリー番組が放映された。
その中に、元贋作犯ジョン・マイアットへの取材があった。
ジョン・マイアットは200点近い有名作品の贋作で、美術界を手玉に取った天才贋作師である。
1年間の服役後、現在は「正直な贋作師」として生計を立てている。
名作とそっくりの作品を、彼が描いたと断った上で販売しているのだ。
彼の作品の支持者は、通常では所有することが不可能である著名な作品(の複製)を所有出来るという事が、大きな歓びだと言う。この感覚は、映画や写真、レコードなどの複製芸術が持っている、戦闘的な意義と無縁では無い。


複製芸術以外の芸術作品においては、作品は1点しか存在せず、それ以外は模造品であり、価値が劣るというのが普通である。
一方、絵画や彫刻といったものは、物質としての特性からは逃れられない。つまり、どうしても時とともに劣化してしまうのである。
従って、今日我々が接する事が出来る作品は、作者が意図したものと全く異なる、経時変化してしまった物かも知れない。
この事から考えて、オリジナルを忠実に再現する技術は、現存する作品の価値を超える可能性を持っている、と考える事が出来るのではないだろうか。

絵画技術習得の為、模写という行為が行われる。
これはあくまで練習であり、芸術行為では無いと認識されているが、日本画の世界においては、古くは芸術行為そのものであった。
有名な尾形光琳の「風神雷神図屏風」は、俵屋宗達の模作である。
しかし光琳の「風神雷神図屏風」も宗達のものと同様に、高く評価されている。

元贋作犯ジョン・マイアットの技術は、金額評価とは別の次元で、芸術行為として、もっと高く評価されるべき技術であると思う。

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